生産性の向上とは?

カトーデンキ(現ケーズHD)の古い社内報があります。1989年(昭和64年 平成元年)の「社員のひろば」第4号に、加藤馨会長(当時)が「提言 生産性の向上について」という原稿を寄せています。

1989年という時期を振り返りましょう。1982年3月に、当時の加藤修一専務に社長の座を譲り、加藤馨氏は会長に就任。1987年に栃木県宇都宮市に初の県外出店を果たします。これは前年にコジマが水戸に出店して来たことへの対抗でした。そして、1988年4月に株式を店頭登録(上場)。1989年は、茨城県の中堅量販だったカトーデンキが、まさにステージを一つ上げるタイミングだったと言えるでしょう。

加藤馨氏の提言は、この時期のカトーデンキがどのようなことを考え、目標に掲げていたのかがよく分かるものです。市場環境こそ今とは異なりますが、その考え方は、十分今でも通用します。ネット通販が普及した今、リアル店舗がその存在意義を高めるために取り組むべき、そして販売現場がしっかり意識すべきテーマとも言えるでしょう。今回は元の原稿をそのまま紹介します。

提言 生産性の向上に就いて(会長 加藤 馨)

一、我が社の信条の中に、我等は今日一日を生産性の向上に努力しましょう。と言う言葉があります。生産性とは労働生産性のことで、一人の社員が全社員を平均して一ケ月の間にいくら働いたかということを金額にして表わしたものです。ですからこの金額は、高く(大きく)なればなる程、その会社の経営は能率が良いことになります。会社の優劣は、この金額の高いか低いかできまり決して会社の規模の大小できまるものではありません。労働生産性の高い会社は順調に業績が向上して、年毎にその会社は大きく成長発展して行くものです。又重要なことは、この労働生産性とそこで働いている社員の給与(給与+賞与+福利厚生費+退職金等)に大きな関係があります。一般的に考えますと会社で全社員に支払う給与額(人件費のこと)は労働生産額の30%~35%が日本では普通です。ですからこの労働生産性が2倍に高くなれば給与も2倍にすることが出来るのです。当社は昨年度(六十三年九月期)では一ヶ月一人当り約一〇〇万円です。当社の目標としては、これを数年の中に一五〇万円に増加させることに重点をおいて、社長以下幹部の皆さんが計画を推進しているところです。

二、それでは、この労働生産性の向上はどうしたら実現することが出来るのでしょうか。これがためには、先ず全社を上げて自分が受持っている仕事の能率を向上させることです。直接営業に携っている人は勿論のこと、事務をやる人も仕入れをする人も、その能率の向上目標を一五〇%になるように考えて努力することであります。仕事と言うものは、向上心を持って当たれば自分の仕事の改善すべきところに気付きます。それを毎日毎日繰り返して行きますと、自分の職業と言うものに非常に興味が出て来ます。今日は何を改善しようかと朝考えて仕事に取りかゝる毎日は、どんなにスバラシイ人生で楽しいことゝ思います。さあ今日からこの気持で仕事に取組みましょう。

三、次に仕事の能率のための細部に就いて考えてみましょう。冷蔵庫を買いに来店されたお客に接客したとしましょう。お客様は年令や職業等に依り好みや考え方が異りますが、お客様の持っている冷蔵庫に対する知識はありません。そこで冷蔵庫の八年、十年以前のものと今店頭にあるものゝ性能の差異を説明し、電気代も昔の物の半分位ですむ等の話を付け加えると殆どの人が買い換えたくなるものです。先日の政府統計局の発表に依ると、日本のご家庭の貯蓄額は約一〇〇〇万円になりました。ですからお客様の大半の方は価額の安い物より高級な品物を買いたいと思って居ります。ですから一般的には(特別の人を除いて)、高級な物をお客様に推める努力が必要です。高級な物をスムーズに買って頂くためには、売る側はお客様を納得させるだけの知識が必要になります。若し社員の皆さんの中で高級品が良く売れない人が居りましたら先ず次の事を練習して下さい。

(1)自分が、だれよりも社内で一番受持の商品の知識に詳しい人になること。
(2)お客様に逢ったら、初対面でもにっこり笑顔で迎えることが出来るように、鏡を見ながら練習すること。
(3)気持を大きく持って、いつも感謝の気持で人に接することが出来るようになること。

四、当社の労働生産性は県内では上位に属してはおりますが、未だ向上の余地は大ですから力を合せて目標に向って前進しましょう。

流通業の売上は、店舗の一人ひとりのスタッフが、一人ひとりのお客様に販売した売上金額の総和です。量販店の場合、多店舗展開しているので、集団としての力、そして分業による能率の向上が、会社全体の生産性向上につながります。

集団の力としては、販売数量の多さを背景にした商談、多くのスタッフや店舗を集中管理することによるコストダウン、面で商圏をカバーし競争力を高めることなどが挙げられます。

特に重要なのが、分業の力です。商品の仕入れから販売、サービスまで、すべてを一人の人間が担うのは大変なことです。1人の力を100とすれば、普通に考えると、30:50:20くらいの力の配分になるでしょうか。何でもやる人が3人用意できれば90+150+60で、合計300の力になります。これを分業するとどうでしょうか。3人で仕事を分けるので100+100+100で、同じ300の力になります。

見逃せないことは、専業化は能率の向上が図れるということです。加藤馨さんは、「自分が受持っている仕事の能率を向上させることです。直接営業に携っている人は勿論のこと、事務をやる人も仕入れをする人も、その能率の向上目標を一五〇%になるように考えて努力することであります」と語っています。

同じ仕事を日々行うと、仕事に慣れます。さらには、こうすればうまくできる、短時間でできるなどの「工夫」が生まれます。その結果、一人100の力が120にも150にもなるのです。3人なら150+150+150で450の力になります。一方で、何でもやる人が3人いて90+150+60の力を発揮している状況で業務効率を向上しようとしても、人によって差が生じますし、ある業務を向上しようとすると他の業務がおろそかになることもあります。とても450の力には届きませんし、そうするにはスーパーマンのような能力がある人をそろえなければいけません。

「がんばらない」という言葉の背景には、このような効率化による生産性の向上があるのです。何でもできるスーパーマンになることをスタッフに求めるのではありません。ごく普通の能力の人でも高い生産性を発揮できるような仕組みをつくることで、はじめて「経営」になるのです。

管理職の人は特にこのことを忘れてはいけないと思います。「あいつはあれが出来ないから駄目だ」「使えない」と減点方式で評価することが管理職の仕事ではありません。各人が生産性を向上できるような働き方、取り組むべき仕事を考え、その人が「向上心を持って仕事ができる」ようにして、スタッフ一人ひとりの人生を充実したものにする――これが「がんばらない経営」につながるのです。

「あまり優秀ではだめ」(加藤修一氏)

加藤修一氏も常々店長に向けて「生産性の向上」について語ってきました。例えば2013年の訓話に以下のような言葉があります。

リーダーとして部下を育てていく時に、なんでも指示をしてはダメです。それをやっていると、指示されたことはやるけれど、言われないことは何にもできない人ができあがっちゃうんですね。(中略)ですから、そこの長になる人があまり優秀ではダメなんですね。自分が偉そうに、俺がこんなにいっぱい知っている、だから俺の言ったとおりやるとうまくいくだろう、という人が多い。それでは、下の人が育たないから会社が大きくなればなるほど大変になっちゃうんですよ。小さな会社のうちはいいんですよ。10人位でやってる時にはリーダーが優秀だとその人の働きが非常に為になって10人で13人分位の仕事ができる。しかし、1000人、10000人ってなってくると、皆さんの部下が1割でも2割でも余分に働いたほうが何千人も余分に働いたと同じ結果になるんですね。

念のため説明しますが、「余分に働く」というのはもちろん「残業」ではなく、100の力で110%、120%の仕事ができるよう「能率を上げる」ということです。この発言を見てもわかるように、加藤馨氏の「提言」は加藤修一氏にしっかり引き継がれました。「がんばらない」で「業績を向上」するというと、相反する矛盾したことを言っているように受け取られがちです。しかし、そうではありません。

派手なパフォーマンスで世間の注目や評価を得るよりも、地に足をつけて仕事をする。スーパーマンではない、ごく普通の人が、当たり前に仕事をしながら、仕事の能率を高め、高い成果につなげる――これはとても重要なことです。会社や店舗は組織です。個人のスーパープレイだのみの業績は長続きしません。

加藤馨氏は、提言で「会社の優劣は、この金額(=労働生産性)の高いか低いかできまり、決して会社の規模の大小できまるものではありません」とも語っています。事実、当時カトーデンキよりも規模が大きかった数多くの企業が、やがて景気後退のタイミングなどにバタバタと淘汰されていきました。無理をしていたり、生産性を向上する仕組みがなかったりした企業は、規模の大小にかかわらず生き残れなかったのです。「がんばらない経営」は「会社を長く存続させ、着実に成長させる経営」であり、そのことにより多くの従業員の生活を支え、そして社会の買物インフラを担う「持続可能」な経営と定義することもできるでしょう。

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