連載第6回を掲載しました

先週はお休みとなりましたが、連載「『がんばらない経営』を学ぶ」に新しい記事をアップしました。今回のテーマは『好奇心』です。子供のころから好奇心のかたまりだった加藤修一氏。新入社員を迎える4月に新入社員に向けて「好奇心を持つことで仕事が楽しくなり、人生も充実する」と話します。インタビューを行い、後日記事を編集しながら、なにげなく古い社内報を調べてみると、寸分違わない発言を2002年の第55回創業祭で加藤修一氏は発言していました。

私が家電業界誌に在籍していた頃、加藤修一氏に何回かインタビューしましたが、その時も、発言にブレがないことに驚かされました。5年前の記事を見ても、10年前の記事を見ても、経営者としての考えかた、発言は一貫していました。決して「頑固」というわけではありません。経営者として、そして一人の人間として、「何が最善か」「何が正しいか」、常に真理を探ってきたからこそ、考え方が揺るがなかったのだと思います。

その後いろいろな経緯があり、加藤馨経営研究所の活動がスタートしました。筆者は、記事だけでなく、手紙や日記なども含む加藤馨氏に関する様々な資料を見る機会を得ることができました。すると、加藤修一氏のぶれない経営思想は、創業家のDNAとして馨氏からしっかり受け継がれているものだと気が付かされました。

そして、筆者の頭にふと浮かんだのが、中国の思想家・老子の思想に書かれた「上善如水」という言葉です。

上善如水、
水善利万物而不爭。
処衆人所惡、故幾於道。

上善は水のごと(如)し。水はよく万物を利して争わず
衆人のにく(悪)む所におる、故に道にちか(幾)し。

最も理想的な生き方は「水」のようなものである。水はあらゆるものに恵みを与えながら、争うことがない。そして多くの人が嫌がる低い場所に自ら落ち着く。だからこそ道(理想の姿)に近いのだ。

水は入れ物の形に合わせて自由にその形を変えます。丸い容器に入れば丸くなり、細い隙間には糸のように入りこみます。このように目に見える形は自由自在に変化しますが、「水」であるという本質は決して変わりません。水は植物を育て、動物のノドをうるおすなど、大きな恩恵をもたらしますが、決しておごる(偉ぶる)ことなく、謙虚に常に低い場所へと自ら進んで流れていきます。

加藤修一氏の経営スタイルを表していると筆者は感じました。そして、「がんばらない経営」という創業精神はというものは、ここで言う「水」のようなものなのかもしれないと思いました。時代や環境によって変わる部分があっても、その本質は決して変わりません(変わってはいけない)。そして、創業者や経営陣だけが潤うのではなく、社員や世の中に対していかに「豊かさ」を与えるかが重要なのです。

加藤馨氏から修一氏に引き継がれた精神は、まさに「水」のような、ケーズという会社の魂、本質と言えるのではないでしょうか。そして、社員、取引先、お客様、株主の順に大切にする(そのことが結果的に全員を豊かにする)という考え方もまた、「上善如水」という言葉につながっていると感じます。

親族に限らず、新たな経営者に会社を引き継ぐ際には、役職や表面的な考え方ではなく、いかに「水」としての本質を引き継ぐかが重要なのではないかと思います。

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