64期連続増収を実現した思考

昭和22年3月に開業した加藤電機商会は、その後「カトーデンキ」「ケーズデンキ」と看板を変えました。創業者の加藤馨氏から、2代目社長の長男・修一氏に社長を引き継いだのは1982年3月、馨氏64歳、修一氏35歳の時のことです。そして、その加藤修一氏が会長に退いたのは2011年6月。2代にわたり、ケーズデンキ(社名はケーズホールディングス)は、2011年3月期まで64期連続増収を達成しました。

加藤修一氏は、1969年に大学を卒業して当時の加藤電機商会に入社します。その当時、父・馨氏に言われた言葉が「会社は急に大きくすると寿命が来てしまう。寿命が来ないように、会社はゆっくり大きくするものだ」というものです。この言葉を忠実に守り、社長就任時に「売上高を毎年25%ずつ伸ばす」方針を示します。25%というと強気な数字に見えますが、1981年9月期に売上高が20億円を超え、毎年新規出店を行っていた段階。パソコンやワープロが登場し、ビデオデッキも急速に普及、1983年には任天堂「ファミリーコンピュータ」も発売されるなど、家電を取り巻く市場環境には追い風が吹いており、当時の「売上規模を考えれば、25%成長も決して高すぎる数字ではありませんでした。

毎年25%成長すれば、3年で売上高は2倍、6年で4倍、10年で10倍になります。「当時の同業者はもっと強気で倍々ゲームのような計画ばかり」でしたが、社員の確保と教育は、倍々にできるものではありません。しかし、20%程度新しい人を加える程度なら、無理なく現場で先輩たちが教育することも可能です。身の丈に合った、健康的な成長をしっかり見据えていたと言えるでしょう。その後、年商が1000億円を超えた99年3月期からは年15%成長を、2009年3月期からは年10%成長と、規模拡大に合わせて想定する成長率を引き下げていきます。

全力疾走では長続きしない、自分のペースを守らないとばててしまう――「経営は終わりのない駅伝競走」と加藤修一氏は常々語っていますが、このようなペース配分をしっかりトップが掲げるからこそ、各本部もその計画に基づいた無理のない施策を実行できます。売り上げは伸びれば伸びるほど良い、他社よりももっと伸ばそう――そのような評価がまかり通ると、会社のあちらこちらにひずみが生じます。

日本には老舗と呼ばれる会社がいくつもあります。では、江戸時代から続いている会社がもし高い成長率を目標にしていたら、令和の今どうなっているでしょうか? おそらく地球全体では足りず、太陽系、銀河系までマーケットを広げなければならないでしょう。人体もそうです。急激に身長が伸びると、関節や筋肉の成長が追いつかず故障しやすくなったり、障害が発生したりします。強く健康な体を作るには、がむしゃらに体を鍛えるのではなく、適切な栄養バランスや適切なペース配分が不可欠です。これは会社経営も同じです。成長を目標とするのではなく、事業の継続を意識した経営が大切なのです。

不況下に取り組むべきこと

ケーズデンキは64期連続増収を果たしましたが、市場が常に順風満帆だったわけではありません。さまざまな経済危機、家電不況がありました。その中で増収を維持できたのは、市場環境に左右されず、無理のない成長ペースを維持してきたからです。好況の時には既存店の売り上げが伸びます。不況の時には、出店を多めにします。不況時は物件や建設費用も安くなり、優秀な人材も確保しやすくなります。つまり、長い目で見れば「好況充実 不況拡大」は理にかなったローコスト経営です。しかし、世の中の多くの企業は逆の事をしています。「がんばらない経営」は、よく「逆張り」と言われますが、そんなことはありません。理にかなった「順張り」なのです。

リーマンショックで日本全体が不況に陥った時期、「日経ストラテジー」2009年12号のインタビューに以下のような加藤修一氏の談話があります。

――この不況期でどのような点に注意を払っていますか。
加藤 基本をさらに徹底しようということですね。お客さんが欲しい商品がそろっているか、その商品をきちんと気づいてもらえるように並べているか、在庫は膨らんでいないか。環境が厳しいと予想されるのであれば、売るための基本的な仕組みにズレがないかを点検することが重要です。実際に在庫の削減はうまく進みました。基本を徹底しようとすれば、常にやるべきことが生じます。商品はどんどん変わっていくのですから。
世の中では、厳しいから売り方そのものを変えようとする場合が多いようです。景気が悪いとか、外部環境が良くないというときには、正しいことをやっていても売れない可能性があります。だったら、正しいやり方のさらなる徹底が必要じゃないでしょうか。正しい売り方をしているのに「環境が悪いから」と売り方を変えてしまえば、もっと悪くなってしまうかもしれません。
景気が悪いというだけで現状否定するのではなく、まず今の売り方が本当に正しいのか、間違っているのかを判断する必要があります。むしろ景気がいいときに、少し余裕があるから将来を考えていろいろと変えてみようというなら分かります。

「日経ストラテジー」2009年12月号トップインタビューより

現在のコロナ禍による外出自粛の中、家電量販店は好調ですが、飲食店や衣料品店はとても苦しい状況に追い込まれています。ここまで多くの人が外出を控える状況が、これほどまで長く続くというのは未経験の事態と言えます。経営状況が深刻で、どうにもならない企業も少なくありません。しかし、このような未曽有のリスクも、これまで可能性がゼロだったわけではありません。不測の事態に対応できるよう、経営上の余裕を持つことが重要です。常にギリギリの状況で全力疾走しているともっと小さいリスクでも容易に倒れてしまいます。

「景気が悪いというだけで現状否定するのではなく、まず今の売り方が本当に正しいのか、間違っているのかを判断する必要があります」というのは危機に際してまず行うべき大切な判断です。将来を考えていろいろと変えてみるのは、あくまで「少し余裕がある」「景気がいいとき」にすべきことなのです。

不況下の企業経営だけではありません。店舗も、商圏の変化や競合動向に左右され業績が上下します。しかし、その際に目先の売上に振り回されるのではなく、自店がお客様に支持されているか、「親切な店」としてお客様に本当に満足いただけているのか、日々の取り組みをしっかり検証することが大切です。「競合が出店してきたから」「人口が減少しているから」と、安易に不振の理由付けをしてしまうと、本来「やるべきこと」がおろそかになることが少なくありません。しかし、それではますます不振が拡大してしまいます。

不況下では、企業本来の体力が問われます。「がんばらない経営」は派手さや目立つ取り組みこそありませんが「強い」経営です。強さは一朝一夕で身につくものではありません。今回のコロナ禍がいつまで続くのかまだわかりませんが、乗り越えたら「無理せず、がんばらずに成長できる」仕組みを考えることが必要ではないでしょうか。

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