「駆け出し時代」の失敗談

本日、連載企画「『がんばらない経営』を学ぶ」の新着記事をアップしました。「がんばらない経営の基礎② 経営者に求められること」という内容です

https://ryutsu-biz.com/kato-keiei/gambaranai

私が業界誌記者で流通各社を取材したり、あるいは証券会社との情報交換、機関投資家向けのセミナーや個別相談会などで、家電量販企業各社の特徴について説明したり、ディスカッションをした時、ケーズデンキの位置づけは「変った経営方針」の会社として際立った存在でした。

「好況充実 不況拡大」「専門店としての精度を高める」などの方針は、家電流通以外の流通企業と比較しても異質なものでした。ただ、加藤修一社長(当時)の説明を直接聞くと、胸にストンと落ちる感覚があります。あくまで理詰めの正論であり、決して目を引く奇策ではないからです。

この達観したかのような「真理」を見抜く目が、創業者・加藤馨氏から加藤修一氏へとしっかり引き継がれたことが64期連続増収という安定成長において、大きな原動力となっていたことは間違いありません。今回の記事では、そのような「真理を追究する」意義や実際の決断について紹介しています。もっとも、実際のインタビュー時は、話が脱線することも少なくありませんし、公表できないような話も多々あります。紹介しきれなかったエピソードも、今後何らかの形で記事で紹介できればと考えています。

DMは手間に見合う効果がない

さて、今回の記事中、加藤修一氏の発言に「私は30歳の頃、徹底的にDMをやろうとした経験があって、経験上DMはもともと買う予定のお客様に単に早買いさせるだけの手法と否定的だった」というものがあります。これに関連したメディアでの発言を紹介しておきましょう。

記事は2007年4月5日の読売新聞朝刊「トップの発想 ケーズホールディングス 加藤修一社長」という記事です。「頑張らない経営がファン増やす」「ケーズデンキの家電製品にはポイントカードがない」といった見出しの記事ですが、ここに「私の駆け出し時代」として以下のようなエピソードが紹介されています。

私の駆け出し時代 顧客管理で失敗 
 20歳代のころ顧客管理を試みて失敗したことがある。懸命にデータを取りダイレクトメールを送ったが、手間に見合う効果は出なかった。「冷蔵庫を買って10年ですから買い替え時です」と言っても、お客さんには苦痛なだけ。お客さんが買いたくなった時に「あそこに行って探そう」と思ってもらうことが大切だと分かった。今はラブレターを出すより、いい男(店)になることを心がけている。

2007年4月5日 読売新聞朝刊「トップの発想 ケーズホールディングス 加藤修一社長」より

今回のインタビュー記事では「30歳の頃」と話していますが、大学卒業後に加藤電機商会に入社し、営業、販促、あるいは商談などいろいろな業務を担当しながら試行錯誤をしていたのが20代後半~30代ということでしょう。

DMはすでに購入経験があり、顧客情報を持っているお客様に対する販促活動です。購入履歴や住所情報、企業によっては、年齢や世帯構成、住居区分などの情報をデータ化しているところもあります。DMは「お客様のニーズを把握している」という優位性を発揮し、お客様にとって役立つ情報を発信する手法ですので、強力な販促手法と思われます。ですが、DMを受け取ったお客様から見てどう思われるか?という視点が欠かせません。「お買い得」とうたいながら、実際には「売らんかな」のアピールにすぎなければ、お客様との信頼関係は損なわれます。これは販促費用が比較的かからない電子メールやSNSでの販促も同様です。

セール情報は確かにお客様にとって有益でしょう。しかし、通常のチラシよりも高い費用をかけてセール案内状を送っても、実際に買うのは「もともと買う予定がある」お客様がほとんどです。結局は、購入タイミングをセールまで待たせる、もしくはセールがあるから少し早めに買うように促す――というのが、DMの現実的な効果です。だからこそ、加藤修一氏は「手間に見合う効果は出なかった」と話しているわけです。特に家電は大型商品を中心に買い替え需要がほとんどですから、DMをきっかけとした「新規」購入の比率はとても低いのです。

筆者はかつて広告代理店にコンサルティングをしていたことがありますが、広告代理店の顧客である流通企業はDMに非常に熱心でした。DMセールに合わせて有力商品を集め、DM限定の特価訴求を行い、来店記念品も用意するという力の入りよう。DMを実施した週は当然ですが、毎年高い売上実績でした。しかし、現場の店長、あるいは直接DMにかかわっていない営業担当者に話を聞くとあまりいい顔をしません。毎年実施しているのでお客様もセールの実施タイミングが分かっており、1か月前から売上が減少傾向となり、実施後も売上が落ち込むためです。しかも粗利は通常週に比べて低くなります。

お祭り騒ぎの賑いにこそなれ、かけた手間や費用に見合う実績がともなっていない――現場レベルはそのことを分かっているのです。結局は、得意客に向けた費用持ち出しの感謝イベントのようなものに過ぎません。それでも、セール担当部門は、前年実績よりも高い実績をあげようと内容を強化します。もしセールを中止すれば、セール分の売上が落ちてしまうという怖さもあるのでしょう。これでは、販促における「麻薬」のようなものです。

加藤修一氏は、DM販促に実際に取り組んだうえで、その成果を正しく見極め、「能率的ではない」と判断しました。「ラブレターを出すより、いい男(店)になることを心がけている」――まさに販促についての至言です。いくら「ラブレター」(=DM)を出しても「いい男」(=店)でなければ振り向いてもらえません。磨きをかけていい男になれば、逆にラブレターを貰えるかもしれません。また、ラブレターという1度のイベント、1回の文面より、普段付き合う際の会話や態度の方が、付き合うかどうか判断する上での大きなポイントになります。お客様との関係も同様です。

このように、無駄な努力をせず、一番大切な魅力を高めることが、競合に対する競争力を高め、リピートするお客様を増やすことにつながります。これが「無駄なことをしないで、やるべきことを徹底的にやる」ことなのです。

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