「効率」と「能率」は違う
連載『がんばらない経営を学ぶ』のページに、「がんばらない経営の基礎④ 品揃えの考えかた(前編)」をアップしました。タイトル通り、品揃えの考えかたを中心に加藤修一氏に語っていただいていますが、ボリュームが多く、前後編に分けての掲載となります。今回は「壁紙商品」を中心に取り上げています。
壁紙商品というのは、加湿器や空気清浄機のフィルター、電池、管球など、消耗品を中心とした商品です。ケーズデンキの場合、これら消耗品を非常に多く品揃えしています。とはいえ、一般的なアルカリ電池やLED電球、直管蛍光灯であれば、数量もそれなりに売れます。しかし、ニッチな消耗品はそうそう売れるものではありません。例を挙げるなら、特殊なボタン電池、水槽や観葉植物用の特殊直管蛍光灯など。これらは、品揃えしていても全く売れない場合もあります。しかし、お客様にとっては、他の型番の商品で代替えできない商品です。商品を探しているお客様にとっては、「あって助かった」「ここでしか買えない」と思っていただける商品なのです。
よく売れる商品ではないが、いつでも買えるように用意しておく。売場で常にメンテナンスをする必要がなく、壁紙のように置かれている。そのような商品が「壁紙商品」です。これは加藤修一氏がつくりあげたケーズデンキ店舗の特徴ともいえるもので、お客様に「親切な店舗」として支持される要因の一つにもなっています。
効率追求が常に正しいとは限らない
世の中では、「効率=正しい」と考えられがちです。しかし、壁紙商品は、商品回転率、売り場効率という観点から判定すれば、カットすべき商品となります。「効率的」ではないからです。そのような商品に場所を割くなら、もっと売れる商品、あるいは家電以外の新規商品を導入したほうがよい――経営コンサルタントならそのように断定するかもしれません。そのほうが売上も利益も拡大でき「効率が上がる」と考えるでしょう。特殊な消耗品は、必要ない人には不要で、安くしても売れません。結果として廃棄になる可能性も高まります。こうなると、「置くべきではない商品」となってしまいます。
しかし、効率追求というのは常に正しいとは限りません。壁紙商品に関する加藤氏の考えは記事で読んでいただくとして、前回の記事「第3回 お客様に喜ばれる店舗とは」でも、このように語っています。
粗利というのは、必ずしも「率」が大きい必要はない面もある。30 万円の冷蔵庫を売って粗利1 割なら3 万円の儲け。5 万円の冷蔵庫を売って粗利2 割でも1 万円。運ぶ手間が一緒だとしたら、高いほうを買ってもらって粗利額が多い方が当然いい。もしくは、商売が短時間で終わってたくさん売ることができればいい。それが「能率」ということ。
連載『がんばらない経営を学ぶ』 ~第3回「お客様に喜ばれる店舗とは」
加藤氏が重視するのは「能率」であって「効率」ではありません。一見、無駄で非効率に見えるようなことでも、見かたを変えれば店舗や会社にとって大きな恩恵をもたらすことがあります。上の引用のように、個々の取引上の「率」は下がっても、数量が増えることで会社全体としての利益は向上するケースもあるのです。「率」と「額」、どちらが大切かと言えば、当然後者でしょう。利益を拡大するために「効率」を追求して、結果として利益拡大の可能性を阻害してしまっては本末転倒です。
「がんばらない経営」の「がんばらない」という言葉には、このような「効率」より「能率」を重視する考えかたが含まれています。コストが高いからと売上高におけるコスト比率を下げることに努力するより、コストの上昇を抑えつつ、売上高を拡大すれば、結果的にコスト率は下がります。世の中では「コストダウンは正義」と考えがちですが、そのような表面的な見かたに流されず、物事を正しく見極めることが「無理しないで会社を大きくする」ことにつながったのです。
「効率より能率を重視する」考え方は、父・加藤馨氏から引き継いだと加藤修一氏は話します。このあたりについては、あらためて連載「『がんばらない経営』を学ぶ」でテーマとして取り上げたいと思います。